ダッカにて(4)
1993年5月10日
停電がほぼ毎日のようにある。それも長時間。こんなのでは冷蔵庫も意味がない。 真っ暗な中、湿気を含んだ生ぬるい風が、花々のむせかえるように甘い香りを運んでくる。何もできないので、Aさんと色々しゃべる。
Aさんは、「いざとなれば人を殺すこともできる」ほど、意志が強い人なのだそうだ。友達からそう言われるらしい。一瞬ぎょっとした。でも、すぐに「ジハード」という言葉が頭に浮かんだ。「人も殺せるほど」というのは、もしかするとイスラム世界独特の肯定的意味をもった表現なのかもしれない。(他の世界では、それが自分をアピールする言葉にはなりえないだろう。) Aさんは自分はイスラム教徒ではないと言っているが、彼の父親は日に5回のお祈りを欠かさない人だそうだ。精神的な影響は受けているにちがいない。
※ あとで調べたら、「ジハード」には「聖戦」、つまり「神聖」という意味も、「戦い」という意味も含まれていないらしい。 「ジハード」の言葉をもって、イスラム教徒に対して「宗教のためには戦争も辞さない」などというイメージを持つのはきっと間違っているのだろう。Aさんのことも、誤解だったかもしれない、と今は思う。
1993年5月15日
ひどい風邪をひいてしまった。このとてつもなく高い湿度と、激しい気温の変化のせいだろう。日本では風邪なんてひいたことないのに。
ここでは服は決して乾かない。日本から持ってきた洋服は特に。したがって自然とこちらのものを着るようになる。こちらの服は薄い綿でできているので、乾きやすい。
ベッドも常に湿っている。ソファーも。 Aさん好みの重厚なアラビア風の布製家具は、バングラデシュの気候にはちょっと無理があるみたい...
1993年5月21日
Aさんの周りの女の人たちは、どうも容貌を気にしすぎる。髪の毛や肌の色、サリーやアクセサリー。髪の毛は多いほどいいし、肌の色は白いほどいい。サリーはたくさん持っているに越したことはないし、アクセサリーはもちろん本物の金や宝石でないとだめ。そういうものに対する貪欲さに、圧倒される。 彼女たちの「外見の美」に対する憧れは、怖いほどに強い。それによってのみ、女性が評価される社会なのだろうか。ん?日本もそうか?
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